酪農・畜産のDX化で、食糧生産の先駆者を生む【株式会社ファームノート】
2022年9月16日 公開
故郷とのつながりから、酪農業の課題を見出す。
「社内の情報共有や牛の管理で苦労しているため、IT化を進めたいと話を持ちかけられたのがファームノートの始まりだと小林から聞いています」
当時の拠点は東京。すでに酪農とは縁が遠い立地だったが、故郷の「経営課題に向き合うため」にもヒアリングを進めたところ、酪農や畜産の世界は他の業界と比べて一段とデジタル化が進んでいないことが分かってきた。加えて牛は全国で約400万頭、その3分の1が北海道で飼養されているため、市場規模も大きい。
酪農関連の新規開発にあたり、スタートアップのメンバーとして白羽の矢が立ったのが小林さんと旧知の仲だった下村さん。当時は東京の広告代理店に勤めていた。
「実はかつてスタートアップ企業でインターンを経験し、会社が急激に伸びていく感覚を味わいました。あの熱気を再び感じたくてチャレンジすることを決めたんです。とはいえ、行き先は都会のオフィスではなく、十勝にある牧場。周囲からは驚かれました(笑)」
センサーとAIを駆使し、牛の行動を見える化。
「酪農はワークフローが複雑な上、牛の状態により臨機応変な対応が求められます。特に人手も時間も奪われるのが繁殖。妊娠は雌牛の生理周期に合わせて人工授精を施すのが一般的ですが、発情のタイミングを的確に狙わなければ上手く受胎しません。その機会を発見するためには従業員が牛を常日頃から観察していなければならず、他の業務に集中できない事も課題でした」
解決のヒントになったのが牛の行動。雌牛は発情の前触れとして歩数が増えたり鳴き声が変わるという。その兆候を逃さないためには、牛に装着するウェアラブルデバイスの開発が必要だという結論に至った。
「牛の首にセンサー付デバイスを取り付けて行動データを収集し、各種論文の研究データや牛の個体差に合わせて活動などを分析するAIを組み込んでいきました。とはいえ、ハードウェアの開発は初めてのこと。膨大な資金がかかるために、国の助成金を駆使し、綱渡りで開発を進めました」
2014年秋の開発開始から約2年、ついに牛の発情傾向や体調変化を検知する「Farmnote Color」が完成した。その画期的なシステムの噂は瞬く間に全国へ広まり、シェアを急拡大。更に畜産用の和牛向けにも改良を重ね、肉牛の生産が盛んな西日本や九州、沖縄まで顧客が広がった。
自社牧場で持続可能な生産環境をリードする。
現在は情報共有アプリ「Farmnote Cloud」、ウェアラブルデバイス「Farmnote Color」に加え、牧場経営をサポートする「Farmnote Compass」をリリース。更には牛のゲノム解析で収益性の高い牛の繁殖の指標を示す「Farmnote Gene」まで開発した。
同社が今、率先して進めているのが環境負荷を減らす取り組み。例えば、牛の糞尿は大量の窒素を含むため、地表へ放置すると土壌が窒素過多となり、河川へと流れると赤潮の発生源となる厄介者なのだという。しかし自社農場では固液分離機で糞尿を処理することで環境負荷を軽減。さらに分離した固形分は牛の寝床に敷く敷料(しきりょう)として利用もできるそうだ。
「こうしたサステイナブルな取り組みやアニマルウェルフェア(動物福祉)を実現し、人だけでなく動物や自然にも貢献することが、今の時代に即したDX化と呼べるのではないでしょうか。もはや、弊社のミッションは牧場経営の課題解決だけに留まりません。世界が抱える食糧問題の解決方法をこの北海道から示していくのが、私たちの役割なんです」
株式会社ファームノート

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