相談員不足で「北海道いのちの電話」がつながりにくくなっている現状とは
2022年7月18日 公開

生きる力は誰もが平等に持っている。私たちはその力を相談者から教わっているのです。

社会福祉法人 北海道いのちの電話 事務局長/杉本明さん
相談員になるには約1年半の研修を受け、認定審査を受ける必要があります。研修で教わることは3つ。1つ目が傾聴に徹する姿勢。2つ目がどんな価値観も尊重し受けとめる心。3つ目が「共感的理解」、相手の立場に立って理解しようとすることです。
かつては私も電話を受けていました。私たちは相談者に対して、絶対に意見してはなりませんし、「でも」と口を挟んではいけません。人には百人百色の価値観がありますが、私たちはその善しあしを判断する立場にはないのです。ただ一つ例外として口を挟むのは、自死を止める時です。
カウンセリングの父と呼ばれるカール・ロ ジャーズという心理学者は「生きる力は誰もが平等に持っている」という考えの持ち主でした。相談者は「死にたい」と口走りながらも、ここに電話をしてきた時点で、心の底では生きたいと願っています。相談に耳を傾け続けていると、そうした願いを言葉の端々に感じることがあります。
相談員になった人たちは、初めは皆「誰かの役に立ちたい」と話しますが、やがてそれが奢りだったと気付かされます。私たちは相談者から、人の生きる力、生きる強さを教わっているのです。
現在、全道の小中学校・高等学校で『こころのライブ授業』という企画を行っています。私の講演と、ロックバンド『ナイトdeライト』によるライブの出張授業です。私が講演で必ず伝えているのは、身近に話せる人を作って欲しいということと、どうかその人の相談相手になって欲しいという2つ。誰もが身近な人に相談できる社会になった時、いのちの電話の役割が終わるでしょう。当会の相談員の募集だけでなく、皆さまが身近な誰かの相談者となることも願っています。
人生を語り合える仲間との出会いが、私の30年を支えてくれました。

相談員/山田里子(仮名)さん
相談者は、私の想像を超えるさまざまな人生を歩んでいます。言い方が正しいかは分かりませんが、私にとっての相談員のやりがいは、多様な価値観を持つ相談者の方々と出会えることにあるんです。
私はいつも、すべての人の価値観や思いを肯定的に受け止め、否定しないことを心掛けています。また、疑問に思った時は聞き流さずに「どういう意味ですか?」とその真意を確認するのも大切です。つい最近も仕事がつらいとお電話されてきた方がいましたが、しばらく耳を傾けていると、「終わりにしたい」と言い出しました。私は「終わりとはどういう意味ですか」と聞くと、そこで初めて「自殺です」と相談者が口にしました。すると、それが恐ろしいことだと気付いたのでしょう、その言葉を皮切りに次々と身の上を明かし始めました。このように心の整理を促すのも私たちの役割です。
私が唯一否定するのは「あなたのお陰で元気になれました」と言われた時だけです。なぜならすべては相談者本人が生み出した答えだから。「私ではなく、あなたの力ですよ」。そう伝えることで、相談者が今後を生きるための自信にもつながるのです。
相談員を辞めたいと思ったことは一度もありません。その理由は、いつも仲間に支えられているからです。相談員には毎月研修があり、そこでさまざまな仲間や、人生の師とも呼べる素晴らしい方と出会えるんです。『いのちの電話』相談員という特殊な役割だからこそ、本音で語り合える関係を築き、一生の友とも呼べる人々と多くの時間を過ごすことができました。そして今でも生きるとは何かを、学び続けています。
私は心理学やカウンセリングの専門家でも何でもない、ごく普通の主婦です。ただすべての人に、温かな気持ちで接するようにしているだけです。相談員になるには、その心だけで充分。少しでもいい、私たちの活動に力を貸してくれる方を待っています。
社会福祉法人 北海道いのちの電話 事務局
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