北海道発!商品誕生エピソード【石狩の企業と大学が共同開発、オール石狩産の石狩鍋「じっくり、乾燥鍋。いしかり」/株式会社ショクラク(石狩市)】
2021年8月30日 公開

「生産者の力になりたい」と藤女子大学と共同開発。

株式会社ショクラク/佐々木真実子さん
「長年お世話になっている生産者への恩返しがしたいと事業を開始しました。しかし長期保存が可能で加工しやすい米と違い、野菜は保存がしにくく、生産者の安定収入につなげにくいのが悩みだったんです。そこで注目したのが、野菜を乾燥させる技術でした」
乾燥野菜は保存性が高いばかりか、生野菜に比べてうまみが深く、栄養価も10倍から20倍にもなる優れ物。創業間もなくから乾燥野菜を用いた商品開発に乗り出すも、北海道や石狩らしいレシピがなかなか生まれませんでした。そんな時、同社と同じく石狩市にキャンパスのある藤女子大学食品栄養学科の村田まり子教授と出会ったそうです。
「偶然にも教授の専門は乾燥野菜でした。すぐに意気投合し、2015年、同大の学生も巻き込んだ共同開発プロジェクトが立ち上がったんです。ある日、アイヌ文化にも詳しい村田教授がふと話してくれたのが、石狩鍋の由来がアイヌの鍋料理『オハウ』であるという説です。アイヌ文化の伝承という点からも取り組む価値があると確信を得て、乾燥石狩鍋の開発が満場一致で決定しました」
石狩産にこだわるあまり、次々とぶつかった壁。
「鮭とばの由来とされる『トゥパ』というアイヌ料理は、脂身の少ない鮭を塩だけで干し、鍋料理に加えたり、水で戻したりして食べられていたそうです。その通り試してみると、脂身が少ない反面、濃縮したうま味が感じられ、石狩鍋に驚くほどマッチした味でした」
そして2017年、満を持して商品が完成、同年にオープンした石狩市の道の駅「あいろーど厚田」で販売を開始します。ところが1カ月で売れたのは、たったの2、3個。一時は販売終了も検討したそうですが、学生たちの想いも背負っていたため、諦めたくないという気持ちで次の手を模索したそうです。
翌年、北海道経済産業局が主催する「パッケージデザインコンテスト北海道」の噂を耳にします。北海道の中小企業が全国のデザイナーにパッケージデザインを募って結果を競うコンテストです。
「作る事にこだわるあまり、手に取ってもらえるデザインにするなど、売る事にまで頭が回っていませんでした。いざ募集に踏み切ると、蓋を開けてビックリ。なんと全国から100以上ものデザインが集まりました。更に、決定したパッケージはグランプリにも選ばれ、知名度が一気に向上したんです」
その後の売上はなんと50倍以上。学生たちともパッケージのクマをあしらったお揃いのTシャツを用意し、PRイベントなども行いました。
失敗と成功を振り返り、新たな商品開発に生かす。
しかし、以前のように足踏みをする事はありませんでした。コロナ禍でのキャンプブームに注目し、乾燥野菜を使ったスープを開発。パッケージにも力を入れたところ、持ち運びの手軽さや栄養補給源として、アウトドアショップから声が掛かるようになりました。更に現在は、石狩地域の野菜をもっと活用すべく、乾燥が難しい越冬野菜の乾燥技術にもチャレンジしているそうです。
「学生たちと日々、開発や研究を重ねた期間は本当にかけがえのない時間で、多くを学んだ体験となりました。その経験を糧に、これからも石狩地域への貢献のためにひた走っていきたいと思います」
ここがこだわり!開発のポイント
採れたての北海道産野菜を温風乾燥。保存料や添加物は使用していません。一日に必要な野菜の1/3が摂取可能で、栄養価もバツグン。更に、噛み応えがある事で咀嚼力(噛む力)を鍛えるメリットもあります。
石狩産白鮭をアイヌ料理「トゥパ」のレシピで加工。噛み応えのある食感と、うまみを感じられる味わいに仕上げました。
軽量でかさばらず、長期保存が可能。更に水を入れて食材を戻し、温めるだけで完成するので、災害時の備蓄にも使えます。2018年の北海道胆振東部地震の際には、学生たちと支援物資として被災地に届けたそうです。
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作り方は食材に水を入れて戻し、温めて顆粒味噌を混ぜるだけ。石狩産のゴボウ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモなど6種類の野菜を使用し、昆布と鮭とばで深いうまみを引き出しています。
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「パッケージデザインコンテスト北海道」2018年グランプリにも輝いたパッケージ。北海道らしい熊のイラストが特徴的。
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今年発売して好調な売上の「一汁一菜 北海道お野菜のだしうまスープ」
株式会社ショクラク

北海道発!商品誕生エピソード
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