株式会社バーナードソフト 代表取締役 瓜生 淳史
2020年3月1日 公開
社員一人ひとりの得意を生かし札幌から新技術を発信する
博学多才の技術者集団が互いに支え合う職場環境のもと独自技術の開発に力を注ぐ。

株式会社バーナードソフト 代表取締役 瓜生 淳史
うりゅう・あつし
上場ベンチャーの開発部長としてIP通信システム等のプロジェクトを担当。2014年にバーナードソフトを起業。ネットワーク通信に関する製品開発のほかブロックチェーンやAIなど常に新しい技術にもチャレンジする。岩見沢市出身。
―まずバーナードソフトの設立経緯について教えてください。
設立は2014年です。創業6年目のまだまだ若い会社です。実は私たちはもともと札幌を拠点としていた上場ベンチャーの技術者でした。2014年1月に会社が事業を東京に集約することになり、札幌から離れたくなかったメンバー15人がスピンアウトする形で会社を立ち上げました。
私たちはVoIP、つまりIPネットワーク上で音声通話を可能にする技術開発に長年携わってきました。このため通信関係に明るく、通信事業者とのつながりもあります。とはいえ、前職と同じ土俵に立つわけにはいきません。そこで、リアルタイムでネットワークを監視する「Tegnos(テグノス)」を開発しました。簡単にいえば、ネットワークを流れるデータをモニター上に「見える化」して不具合を検知するシステムです。多くの監視システムはコンピューターや途中の機械が正常に動いているかを監視しますが、「Tegnos」はネットワーク機器同士が正しく通信できているかを監視するシステムなんです。その点がユニークだと評価いただき、「SAPPOROベンチャーグランプリ2016」で大賞を受賞させていただきました。
AIで音の「見える化」に成功
水力発電所の省力化に貢献
「S-Kaleid(エスカレイド)」です。音をモニター上に「見える化」して、複数箇所を同時に監視できるシステムで、私たちは「リアルタイム音監視システム」と呼んでいます。
映像であれば、10箇所のカメラ映像を一人で監視できますよね。でも10箇所の音を一人でいっぺんに聞いたら、音が混ざり合って何が何だか分かりません。そこで、音を分かりやすいグラフに置き換え、異常音を検知した場合に視覚的に分かるようなシステムをつくりました。モニターを見てください(写真)。これは実際に水力発電所内に設置している「S-Kaleid」のデータです。正常音の閾値を超えた場合にグラフが緑色から黄色に、さらにそれが一定時間続くと赤色に変わります。AIに正常時の音を覚えさせて、そこから外れた音を検知した時に「異常音」と判定します。
―異常音ではなく、正常時の音を覚えさせたんですね。
そうです。そこが他社のアプローチと違うところです。同じ故障でも条件が変われば音の響き方は変わります。いくら研究室で異常音を覚えさせても、集音装置を現場に持っていったら異常音として検知できません。そこで私たちは逆転の発想で、正常時の音を覚えさせてAIに渡しました。グラフの黄色や赤色は、AIが異常音を検知したわけではなく、「この音は知らない」と言っているだけなんです。誤検知をすることもあります。異常ではないのに異常と捉えてしまうケースです。そういう時は「この音は異常音ではないよ」とAIに覚えさせます。それにより次回以降は異常音として検知しなくなります。こうした積み重ねによって徐々に精度を高めていきます。
音監視システムのすぐれた点は、映像では異常が分かりづらい場合に音で検知できること、カメラに比べて設置費用を抑えられるといったことが挙げられます。水力発電所は今後もさらに無人化、省力化が進みますので、音による監視システムには大きな期待を寄せていただいています。「S-Kaleid」はこのほか、自動車工場や大規模データセンター、火力発電所、コンビナートでも実証実験が進められています。
-
「SAPPOROベンチャーグランプリ2016」大賞を受賞したことが、会社にとっても大きな転機に。
-
-
「S-Kaleid」の集音装置。24時間365日、音声を収集してクラウドに渡し、AIが異常音を検知。
技術者集団だからこそ製品への信頼が営業力
社員は現在22名ですが、管理を担当する一人を除き、私を含めて全員が技術者であることです。SIP(※)ができる人間もいれば、AIが得意な社員もいる。それぞれが専門を持つ技術者集団です。「博学多才であり、趣味を活かす」。この言葉を経営理念に掲げています。みんなが得意なことを仕事にしよう。売れるから作るのではなく、社員一人ひとりが得意なことを突き詰めたところに、きっと要望があると考えています。
残業が非常に少ないというのも私たちの特徴ですし、強みだと思います。少ない人は残業時間0、多い人でも年間360時間を超えることはありません。なぜ少ないかといえば、一人に負担を負わせるのではなく、みんなで協力するという社内カルチャーができているからです。私は経営理念に「情けは人の為ならず」を掲げています。人に手を差し伸べたら自分にも返ってくるよ、と。普通は経営理念にこんなこと書きませんよね。
バーナードソフトを立ち上げる際にみんなに聞きました。「バリバリ稼ぐ会社がいいか、ある程度稼ぎながら自由も得られる会社がいいか」。すると後者がイイというので、後者にしました。でも、ただ「ユルい会社」ではいけない。品質と納期を重視する、これは徹底しています。うちは技術者ばかりで、営業を専業とする人がいません。そう言うと、営業力を心配されますが、うちの営業力は品質の高さと納期の厳守です。これを守ることで取引先のみなさまにリピートしていただいています。広告を一切出さない老舗のお寿司屋さん方式です。
※SIP…IETF標準の通信プロトコル
「下町の町工場方式」で横の連携を深めていけたら
こう言うとおかしく聞こえるかもしれませんが、社員のみんなは「バーナードソフトだから」働いているのではなく、「札幌にあるバーナードソフトだから」働いてくれていると思うんです。みんな北海道が大好きで、この気候と風土と人のつながりの中で仕事がしたいと思っている。この環境がバーナードソフトの原動力になっているのは間違いありません。
―札幌のIT業界全体を俯瞰してみていかがでしょうか。
かつて「サッポロバレー」と呼ばれた時代、私たちの上の世代は、北大を中心にしっかりと横の連携ができていました。それぞれ得意分野が重なることなく、得意なことを得意なところがやる。下町の町工場みたいに、ネジが得意な工場はネジを、ピストンが得意な工場はピストンを、といった形でビジネスを展開していました。そうした町工場方式を、今の札幌でもできたらいいですよね。うちは音のAIが得意、A社はVRが得意といったように、市内で競合せず、それぞれの得意分野を突き詰めていく。「○○に関しては日本一得意です」という会社が増えたら、札幌のIT業界全体が盛り上がると思います。
-
2019年4月に6名を採用。若手を積極的に増やし、次代を担う人材の育成にも努めている。
-
「グイグイ引っ張る社長ではなく、みんなをまとめる幹事タイプ」と自らについて語る瓜生社長。
株式会社バーナードソフト

-
世界で輝きを放つ次世代都市SAPPORO
オープンイノベーションから生まれる、新しい暮らしやすさ
Smart AI City SAPPORO「SAPPORO×IT」
最新記事5件
IT企業の集積と産業振興に力を注ぐ札幌市の取り組み
社員一人ひとりの得意を生かし札幌から新技術を発信する
「遊び心」を大切に、世界に通じるコンテンツを
データ×AI×マーケティングで、札幌にイノベーションを起こしたい
札幌らしいデータ活用で世界とつながる魅力的な都市に