ピックアップ情報 スペシャルインタビュー【チャナティップ・ソングラシン選手】

2018年12月17日 公開

北海道コンサドーレ札幌 MF
チャナティップ・ソングラシン(Chanathip Songkrasin)選手

2017年7月、タイからJリーガーとして北海道コンサドーレ札幌に加入したチャナティップ・ソングラシン選手。その卓抜したテクニックは、世界最高峰のサッカープレイヤーと名高いリオルネ・メッシ選手を彷彿とさせることから、「タイのメッシ」という愛称で親しまれている。母国から日本へと飛び出して2年目。彼のサッカー人生や北海道の暮らしについて迫った。

父から基礎技術を
叩き込まれた幼少時代。

チャナティップ選手にインタビューを実施したのは10月の下旬。2018年度のJ1リーグ34試合中30試合を終え、北海道コンサドーレ札幌は上位に食い込む大健闘中。クラブ初となる2年連続のJ1残留もほぼ確定し(現在は確定)、さらなる上位を目指し、宮の沢白い恋人サッカー場では選手たちが神経を研ぎ澄ませてトレーニングに集中していた。
そのピッチ上にチャナティップ選手の姿は見当たらない。聞けば、早めに練習を切り上げ、マッサージでコンディションを調整中だという。それもそのはず、10月中旬にはタイ代表に招集されて激戦を繰り広げ、数日前のJ1リーグ30節に出場するや獅子奮迅の活躍で今シーズン7得点目となるゴールを叩き出したばかり。体を休めることもプロサッカー選手の大事な仕事なのだ。
J1リーグ上位への期待を背負うチーム状況と、自身に溜まった疲労。ピリピリしたムードは覚悟していたが、インタビュールームに現れたチャナティップ選手は胸の高さで合掌して頭をペコリ。タイの伝統的なあいさつ「ワイ」を披露しながら、「ヨロシクオネガイシマス」と微笑みかけてくれた。メディアや試合後のインタビューで見かける謙虚な人柄そのまま。胸をなでおろしたところで、サッカーを始めたきっかけから尋ねた。
「4歳のころからサッカーボールを蹴るようになりました。父は伝説的選手のディエゴ・マラドーナの大ファン。彼のように活躍してほしいと、ドリブルやパス、シュートにヘディングなど基礎技術を教えてくれたんです。サッカーの世界ではベーシックなテクニックを徹底的に身に付けてこそ、グッドプレイヤーになれるんだって。でも…」
でも?言葉の続きを待っていると、意外なセリフが飛び出した。「最初のうちは反復の多い基礎練習が退屈で(笑)。ただ、サッカーは大好きでしたし、当時のトレーニングがあってこそ今があるのは間違いありません」とニッコリ。なるほど、チャナティップ選手のキレのあるターンや相手を翻弄するフェイントは、幼少期の特訓のたまものなのだ。

暑がりだからこそ、
北海道は抜群の環境!?

チャナティップ選手は父の指導と並行し、8歳のころに学校のサッカーチームに加入。以来、一途にプロ選手を目指し、2012年、19歳でタイ・プロリーグのBECテロ・サーサナFCに入団。順調にプロデビューを果たした。初年度から抜群の存在感を発揮し、年間最優秀若手選手賞まで獲得。まさに順風満帆だ。ところで、タイのサッカー環境に日本との違いはあるのだろうか。
「タイは日本と比べてのどかというか、集合時間や規律を守らない選手も多かったです… 僕は真面目なタイプでしたが(笑)。母国ではサポーターも多く、サッカーは一番といって良いくらいの人気あるスポーツ。しかも、一般的な仕事よりもお金が稼げるので、プロ選手は子どもたちに夢がある職業として映っていたはずです」
BECテロ・サーサナFCは2013年にJリーグの清水エスパルスとクラブ間パートナーシップを結び、チャナティップ選手も本拠地の静岡で共同練習に参加した。タイ代表として日本の地で対戦した経験も持ち、試合後には東京を観光したとか。日本のイメージについて尋ねたところ、「すべてが刺激的。東京はショッピングも楽しいです。ただ、あの時は夏だったからタイよりも蒸し暑くて参っちゃいました」と冗談交じりに笑い、こう続けた。
「2016年にタイ・プロリーグのムアントン・ユナイテッドFCに移籍し、その翌年には北海道コンサドーレ札幌からオファーを受けました。Jリーグはタイでも人気ですから手放しで喜びましたが、実は北海道のことをよく知らなかったんです。すぐにスマホで検索したところ、冬には雪が降り、涼しい気候だと…。この環境は暑がりな僕にピッタリだと思いました(笑)」

ファミリーのように
迎えてくれたチームメイト。

Jリーグの「外国人選手」というと、サッカー先進国からやって来た助っ人としてチームを勝利へ導いてくれるイメージ。ところが、チャナティップ選手にとってはタイ・プロリーグよりもハイレベルな舞台へのチャレンジという認識があり、試合に出られるかも分からなかったと率直に話す。
「外国人選手として出場するからには、日本人よりも良いプレーを見せなければポジションは奪えない…。 そんなプレッシャーも大きかったです。なので、一つひとつの試合とプレーを大切にしようという意気込みを人一倍持って臨みました」
慣れない異国の暮らしにも苦労があったかと思いきや、チャナティップ選手はあくまでも前向き。タイに比べて規律正しい日本のルールにもいち早く順応しようと努力し、「ゴミの分別が難しかったけれど一生懸命覚えました」と笑う。チームメイトとどう溶け込んだのか質問を投げかけると、さらに表情を緩めてこう語った。
「皆がファミリーのように温かく迎え入れてくれましたし、今ではよく仲間が『イジって』くれます(笑)。最近は日本語と英語でコミュニケーションをとるように努めているところ。同じ外国人選手のク・ソンユンやキム・ミンテは日本語が話せるので、食事がてら単語を教えてもらっています。例えば、『アリガトウ』とか『イタダキマス』…それと、『オツカレ!』も覚えたかな」
昨シーズンはリーグの途中から参戦したにもかかわらずレギュラーとして定着し、チームメイトとの連携も上々だとスポーツ関係者も評価。ただし、チャナティップ選手は決して満足せずに向上心を燃やしていた。タイではプレー速度や相手の寄せ(プレッシャー)がそこまで厳しくなかったため、試合中によく考えてからパスを出すことが多かったという。
「でも、Jリーグはスピーディー。さらに、チームでの役割も、パスを出すだけでなくフォワードと連携して得点することまで求められるようになりました。頭を切り替えるまでには時間がかかりましたし、昨シーズンは残念ながらゴールが奪えなかったです」

自分の得点よりも、
チームの勝利が第一。

僕にとってのサッカーみたいに、
好きなことを職業にできたら、
それはとても素敵なこと。

当初、チャナティップ選手は期限付移籍だった。けれど、昨シーズンの活躍ぶりには目を見張るものがあり、北海道コンサドーレ札幌のJ1残留に大きく貢献。この夏、完全移籍が決まった。自身の心境に変化はあったのだろうか。
「やはり得点を意識するようになりました。シュートできるタイミングで迷っていると監督に怒られますからね、それもメチャ怖く(笑)。なので、第2節のセレッソ大阪戦で初ゴールを挙げられた時はホッとしました」
とはいえ、得点はあくまで「第二の目標」なのだとか。チャナティップ選手はチームの勝利を第一に、ピッチに入った瞬間から好プレーを繰り出すことしか考えていないと表情を引き締める。この献身的な姿勢がプレーにも表れ、なおかつ人懐こい性格も加わって多くのファンを惹きつけているのだろう。
「北海道コンサドーレ札幌の目標でもあるACL(アジアチャンピオンズリーグ)に出場するのが僕の目下の目標。さらに、いずれはヨーロッパでプレーしてみたいという気持ちもあります。え? 今後の大きな夢ですか? それはワールドカップにタイ代表を連れていくこと。次の開催時には28歳、その次は32歳。まだまだチャンスはあると思います」
インタビューを締めくくろうとしたところ、チャナティップ選手がサンプルとして渡した本誌をめくり、求人情報を珍しそうに眺め始めた。「もし、サッカーをしていなかったら、どんな仕事に就いていたと思いますか?」と思わず聞いてみると、「ずっとサッカー漬けだったから、他の仕事は想像もつきません。ただ、僕にとってのサッカーみたいに、好きなことを職業にできたら、それはとても素敵なことですよね。だから、自分の『好き』が見つかるまで仕事を探し続けるのは大切。乗り越えなければならない壁が立ちはだかると思いますが、前向きなら大丈夫! 北海道の大地で一緒に頑張りましょう」

profile

北海道コンサドーレ札幌 MF
チャナティップ・ソングラシン選手

1993年10月5日生まれ、タイ出身。2012年にタイ・プロリーグでプロデビュー。同年にはAFCU-19選手権でタイの年代別代表に選出され、フル代表としてもデビュー。14年の東南アジア選手権でタイ代表が優勝した際の活躍から、同大会最優秀選手賞を史上最年少で受賞。17年に北海道コンサドーレ札幌へ期限付き移籍。18年に完全移籍。背番号18。

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